近世蝦夷地関係史料の調査・撮影

一九八五年一〇月二一日から同二七日まで、北海道下の厚岸郡厚岸町、札幌市および函館市に出張し、『近藤重蔵蝦夷地関係史料』に関連する史料の調査ならびに撮影を行なった。
 今回の出張での採訪先とそれぞれにおける主たる作業は、次の�〜�のとおりである。
�厚岸町郷土館(厚岸郡厚岸町湾月町一—三)
 近世後期東蝦夷地「場所」の実態を示す基本史料である「国泰寺日鑑記」のうち、第一次幕領期(寛政十一年〜文政四年)部分の調査・撮影。
 厚岸の国泰寺(景運山)は、有珠の善光寺・様似の等〓院とともに文化元年幕府の手で当時の東蝦夷地に建立された三寺院の一つであり、代々の住職は幕府によって任命され、また寺に対しては毎年米百俵・金四八両・一二人扶持が支給される等、この地方の文化政策の拠点としての位置づけがなされていた。現在、同寺の所蔵する日鑑記類の原本は近接する厚岸町郷土館に保管されている。
�北海道開拓記念館(札幌市白石区厚別町小野幌)
 同館に寄託されている、「ヲタスツ場所」(現寿都郡寿都町)の関係史料である岩野仁一家文書を調査・撮影した。
 同文書については、すでに『所報』一〇号(一九七五年)掲載の維新史料部による採訪調査報告の中で、「北海道開拓記念館未登録史料」としてその一部が紹介されているが、今回は『近藤重蔵蝦夷地関係史料』第二冊所収「エトロフ村々人別帳」との関係で、同文書に含まれるヲタスツ場所の人別書上類と体裁やアイヌ人人名の比較検討を行なうために採訪したものである。
�市立函館図書館(函館市青柳町十七—二)
 高田屋嘉兵衛関係ならびに第一次幕領期までの蝦夷地関係史料の調査・撮影。
 市立函館図書館は、「郷土資料」として、北海道の歴史・地理に関する史資料を多数収集している。
 高田屋嘉兵衛はエトロフ島航路と同島の開発に大きな功績のあった人物であり、寛政末年当時近藤重蔵との結び付きも緊密で、重蔵も『蝦夷地関係史料』第二冊の「エトロフ書」に収める上申書草案中で、しばしばその引立てを幕府に要請している。このような両者の関係、また当時の重蔵・嘉兵衛の動きをより正確に把握するために今回同館の所蔵する関連史料の調査・撮影を行なった。しかし、上記作業内容のうち後者(第一次幕領期までの蝦夷地関係史料の調査・撮影)については、点数の関係からその一部を実施しえたにとどまった。
 以下に今回の採訪で撮影した史料を示す。なお、国泰寺文書のうち日鑑記未撮影分の表題については『北海道史料所在目録』(北海道総務部編)、また市立函館図書館所蔵史料の表題については『市立函館図書館郷土資料分類目録』(同館編)の表記にそれぞれ従った。

『東京大学史料編纂所報』第21号